五臓の脾(ひ)①
五臓六腑の脾のお話です。
脾は西洋医学と東洋医学とで、捉え方にかなり差がある器官となっています。
その性質は、健康を保つうえで非常に重要なものとなっています。
今回は、その性質を見ていきましょう!
●西洋医学における脾臓
人体には脾臓という臓器が存在しています。
東洋医学の脾と西洋医学での脾臓には大きな違いがあるのですが、まず西洋医学における脾臓について簡単に説明いたしますね!
この臓器にはいくつか役割があるのですが、大きくは寿命を迎えた赤血球の破壊と病原体から身体を守る免疫機構としての働きがあります。
脾臓は胃の後ろ側にあり、そら豆のような形をしています。
東洋医学の脾とは似ても似つかない形をしています。(上の画像参照)
そのため、現在の脾臓とは別の器官ではないかという説も多々あるのです。
またこのあと話していきますが、東洋医学の脾の機能は、人体での膵臓に近いものがあるため、脾臓と膵臓を間違えたという説まであります。
ちなみに「膵」は日本で作られた漢字です。
●脾の性質
では東洋医学での脾について見ていきたいと思います。
脾は現代の言葉で言うなら消化器官で、飲食物から栄養を作り全身へ送るという非常に重要な役割を担っています。
ほとんどの生物は外部から栄養を摂取しなければ生きていけないため、五臓の中でもとても重要な器官であり、その性質も東洋医学において非常に重要なものとなっています。
・土用
脾者土也 治中央常以四時長四蔵 各十八日寄治不得独主於時也 脾蔵者常著胃土之精也
「黄帝内経素問」太陰陽明論篇第二十九
夏の土用の丑の日はご存じの方が多いと思いますが、土用とは各季節に存在しています。
各季節の直前の18日間のことを土用といって、五行の土の力が働く期間なので土用と言われています。
その中でも夏の土用が最も土の力が必要と言われているのです。
※立秋前の18日間を夏の土用
古代中国では土用のことを四季といい、春夏秋冬のことを四時と読んでいました。
その四時の春には肝が、夏には心、秋には肺、冬には腎が最も活発に働いてくれています。
各臓がしっかりと働けるのは、土用に脾が他の四臓に栄養をしっかり送っているからなのです。
・至陰
陰中之至陰脾也
「黄帝内経素問」金匱真言論篇第四
各臓はそれぞれ陰陽両方の力を持っていると考えられています。
例えば肝なら血を全身へ送る発陳(陽)と全身から血を集める収斂(陰)、肺なら気を中心から外部へ送る宣発(陽)と外部から集めてくる粛降(陰)といったような感じです。
しかし、脾には作られた気血津液を身体の更に内部の器官へ送り出す陰の機能しか備わっていません。
その代わりに、実際に気血津液を作ったり不要なものを外に送り出すような陽の働きは胃が担ってくれています。
※昔の書物でも脾と胃はセットで脾胃と書かれることが多い。
このように脾は陰の力しかないため、陰に至ると書いて至陰と言われています。
脾と胃の2つで陰陽のバランスを保っているため、バランスを崩しやすく健康にも影響を出しやすいのです。
・意と思
脾蔵営営舍意
「黄帝内経霊枢」本神篇第八)
在志為思
「黄帝内経素問」陰陽応象大論篇第五)
五行説の考え方に神と志というものがあります。
神は精神の活動、志は感情のことでありそれぞれ各五臓に影響を与えています。
脾の神は意、志は思となっています。
意とは思い考えることで、思とは思い悩むことです。
つまり人間は脾がしっかり働いてくれているため、物事をしっかりと考え、思きつき、作り出すことができるのです。
アイディアが浮かばないというときは脾が弱っているのかもしれません。
また余計なことを考えすぎてしまうのも、思い悩む「思」に影響があり脾が弱っているのかもしれません。
・脾と気血津液
脾気散精上帰於肺
「黄帝内経素問」経脈別論篇第二十一
主褁(裹)血温五藏
「難経」四十二難
脾主為胃行其津液者也
「黄帝内経素問」厥論篇第四十五
脾胃は消化器官ということもあり、気血津液を作り出しているのですが、作る以外にも気血津液と非常に強く関わっています。
脾胃では気血津液の素が作られているのですが、その気血津液の素を全身へ送るためには脾の力が必要になります。
物流で考えれば、工場で作られたものを各地に送るための配送業者に受け渡す作業を脾が請け負っているのです。
また脾は身体を栄養している血を確実に送り届けるために、血が経脈から漏れでないように経脈を保護してくれています。
そのため脾が弱っていると皮下出血や血尿血便といった出血が多くなります。
実際血管の栄養状態が悪いと、出血が増えやすく、消化吸収機能が下がっている可能性が高いのです。
気血津液を作るためには、胃が飲食物を受け入れて鍋のような役割をしているのですが、火にかけ続けていると空焚きになってしまいますよね?
空焚きにならないように、脾が胃のために津液を使って消火しているのです。
胃という鍋が空焚きにならないので、継続的に栄養を作ることができるので五臓が調和し健康を維持できているのです。
ちなみに胃炎などは空焚きの典型例です。
さて脾の性質について見てきましたが…多いですね。
これでも語り尽くせないほどなのです!
次回は脾と身体の各器官との関わりについて話していこうと思います。
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